09-両親
ビルを飛び出し、無我夢中【むがむちゅう】に走った。サイレンな音が追ってくる。現状とは思えない、確実に僕を追ってくる、殺人者であるこの僕を。
気付いたら、家の前にいた。玄関に飛び込むと、父親が立っていた。そのまま、父親の胸に飛び込んだ。肩越し【かたごし】に泣き崩れている母親の姿が見える。厳格な父に当然殴り飛ばされるたろうと予想していたら、強い力で抱き締められた。
「よく戻った」
父はそれだけ、言って。いっそう力強い手で僕を抱き締めた。父の目から涙が零れる【こぼれる】のが見えた。母が僕の背に覆い被され【おおいかぶされ】るように抱きつき、「いいのよ、いいのよ」と言って嗚咽【おえつ】音を出した。
僕は号泣【ごうきゅう】した。
「うん~~~父さん、母さん、僕、僕が。。」
「分かっている。何も言うな。」
優しい父の声だった。
あんなに厳しく僕を叱ってばかりの父から初めて聞く優しい声だった。
母が泣いている。声を上げて泣いている。僕の背中にしがみつくようにして泣いている。
僕は更に号泣した。
「僕が。。。僕が取り返しをすかないごろ。。」
父の暖かく力強い声が頭越しに聞こえた。
「心配するな。お前のことは父さん達が必ず守る!」
「父さん~母さん~」
三人で号泣した。
親子揃って初めて泣いた気がする。
すると、急に辺りが暗くなって父と母の姿が見えなくなった。僕は又ひとりぼっちになった。
「父さん!母さん!どこにいたの?僕を置いていかないで!僕を一人にしないで!」
10-死ぬな
ぱっと割れに変えると、頭の上に星空が広がっていた。歩き出す彼の背が見えた。僕がとっさに叫んだ。
「駄目だ!」
彼は振り向き様に怪訝【けげん】そうな顔をして言った。
「どうしたの?死ぬのは怖くなったの」
「いいから、止めようよ!」
「怖くなったんだね。それでもいいよ。僕は一人で死ぬから」
彼は駆け出した。
僕はその背に向かって飛びついた。
二人して転がって、気付いたら、下界が見渡せるほどの位置にいた。
僕はごくりと生唾を飲み込んだ。前に見た後景【こうけい】では、あのそこに彼が不自然な格好で横たわっていた。
僕は彼の腕を力いっぱい摑むと、ずるずると元いた位置の近くにまで引っ張っていた。
「放せ!なぜ邪魔をする?」
彼はもがきながら叫んだ。
僕は答えなかった。
「どうせ君も僕を冷やかすためにきたんだろう。死ぬ気もないくせに、僕を笑うためだけに、仲間を装ってきたんだろう。止めるなんてよく言えだな!君も外のやつらと同じ、上から物を言うだけの偽善者だ!」
彼の言葉の終わりはその顔面に思い切り拳【こぶし】を敲き込んだ。涙が溢れてきてとまらない。何で言って、ていいか分からない。
「死ぬな!」
「死ぬな!」とお喚きながら、何度も彼に拳を振った。
「皆のために、君に生きて欲しいと願う人のために、そして、僕のために生きて行け!」
僕は殴るのが止め、彼に覆い被されるよにして、号泣した。
彼も泣いていた。
僕達はそのまま、夜が明けるまで泣き続けだ。


